コンクリートの収縮問題検討委員会報告書(JCI)から
収縮の基準化に対する課題と提案
1.基準化を取り巻く課題
1−1.技術的課題
1−1−1.ひび割れとの相関性
収縮率制限の目標は、コンクリート構造物にとっての「有害なひび割れの抑制」にある。
乾燥収縮率を制限したからと言ってひび割れが必ずしも防止できるわけではない。
1−1−2.評価方法の課題
セメントや骨材、混和材料が常に一定でコンクリートが製造されているわけでない。
全ての生コンの乾燥収縮率を測定することは、多くの手間を要し現実的でない。
1−1−3.自己収縮の影響
W/Cやセメントの種類によっては、自己収縮が無視できない大きさになる。
自己収縮と乾燥収縮を分けて測定するには、部材寸法や乾燥環境を考える必要がある。
供試体データを実構造物に反映するのは容易ではない。
1−2.技術者の課題
1−2−1.技量不足
ひび割れ抑制を性能照査するには、相当な技術力を要する。
高度な性能照査に対する報酬が無いなど、モチベーションが湧きにくい。
「石灰石骨材利用」など安易な対応に流れやすい状況がある。
1−2−2.発注者の意識
有害でないひび割れも押さえ込もうとしている。
安易に最上のものを求める傾向がある。
1−2−3.基準に対する意識
基準に書かれたことを絶対視し過ぎる、間違った認識の技術者が増えている。
いわゆる「数値の独り歩き」、盲目的数値遵守を生じている。
様々な条件により収縮とひび割れの関係は変化するし、抑制手法は複数ある。
1−3.生コンの販売に絡む課題
1−3−1.価格体系
強度とスランプで価格決定されている。乾燥収縮率の小さい生コンは、価格で評価されてない。
価格差が無いので、乾燥収縮率の小さい生コンを指定する傾向がある。
1−3−2.共販制度
全ての工事で低乾燥収縮率が必要なわけではない。
安定供給のシステムが、技術の多様性の足かせになっている。
1−4.関連基準や学会の対応に関する議題
1−4−1.土木と建築の違い
構造物のV/Sから建築は乾燥に注意が行き、土木は温度応力に注目する。
土木構造物は雨を受け、建築の室内は受けない等、乾燥環境が違う。
1−4−2.発注者の違いに対する生コンの対応
技術力を有するインハウスエンジニアが在籍することを前提とする土木。
建築の施主はエンジニアではない。
プラントは土木にも建築にも出荷するので、どちらかに対しオーバースペックになることもある。
1−4−3.学会の標準とローカルルール
設計上考慮すべき作用から乾燥収縮を捉えた場合、荷重係数で考慮されている範疇であるかが不明。
材料の「地産地消の尊重」に対するローカルルールの未整備がある。
2.収縮に対する基準を適正化する提案
2−1.長期的な観点に立つ対応
コンクリートの収縮率は、構造物の機能や耐久性を確保するための1要素。
耐漏水性、耐久性の性能照査が長期使用の基本となる。
収縮率を規定するのは「みなし規定」と位置づけられる。
「みなし規定」の採用は、照査に必要な構造物の種類や条件を明確化する必要がある。
性能規定化の目的、内容、手法等を受・発注者、設計者、供給者等が理解する必要がある。
2−2.乾燥収縮を見なし規定とする対応
生コンへの要求性能の1つとして、「乾燥収縮率」を規定する。
ただし、全プラント、全種類のコンクリートにデータを要求するのは合理的でない。
厳しすぎる無理な要求は誤魔化しを生む。
生コンのクラス分け、価格差別化で購入の自由を確保する仕組みが求められる。
2−3.代替手法による対応
「収縮率」の高精度化、省力化に応じられるように
試験の方法、頻度、実施条件を決定しておく必要がある。
2−4.複眼的なひび割れ対策のマニュアル化
収縮率の規定化の目標は、ひび割れ防止あるいは抑制である。
目的達成のため複数の道筋をマニュアル的に示し、選択肢の1つとして収縮率を位置づけるのが合理的である。
マニュアルが出来たとしても、使用する人の能力の問題がのこる。
3.関連業界に望まれる対応
3−1.発注者の対応
構築する構造物に対する要求性能を明確化する。
単に「ひび割れがないこと」といったレベルではない。真に要求される性能を満足させる必要十分条件とする。
技術的に合理的な範囲で要求性能と検査基準(方法、判定基準など)を示すべきである。
3−2.設計者の対応
合理的に要求性能を満たす設計をする。
ひび割れが機能性や耐久性などに大きく影響する場合は、細心の注意を払う。
不必要なひび割れ防止を組み込み、コストアップさせない。
建設予定地の材料に関する情報を持つことが必要。
3−3.施工者の対応
ある程度決まった手順を忠実に丁寧に実施することが基本。
現場毎の条件変化に対応できる技術の確保。
収縮に関するデータを可能な限り入手すべき。
受発注者双方がひび割れに対する認識を深めることが必要。
高レベルの要求にはコスト発生を発信することが必要。
3−4.生コン業界の対応
購入者からの要請に応じて乾燥収縮率の保証を行うことは生産者の責務。
JIS
A
5308の品質要求事項に乾燥収縮率の保証は無い。
協業化や保証可能なプラントの専任による対応を共販の仕組みに取り入れる必要がある。
保証方法として、使用材料の選定だけでは不十分。所定条件下での試験結果を示すことが不可欠。
収縮低減の方法としては、収縮低減効果を有する混和材や混和剤の使用が確実と考えられる。
乾燥収縮を保証するプラントは、公的な機関(JIS
Q
17025、同17050)による試験を1回/1年受ける。
3−5.骨材業界の対応
骨材品質から収縮特性を予測し、特性毎に顧客の要求に応じられる生産管理が必要。
高性能な骨材は、それなりの価格設定をする販売戦略が必要。
3−6.セメント業界の対応
収縮の原因はセメントペーストの収縮(補足=2000〜2500マイクロ)。
収縮のメガにズムの解明に努める(補足=毛細管収縮や水和ゲル収縮など諸説ある)。
収縮の少ないセメントの開発、収縮の少ないコンクリート製造技術の提供が望ましい。
3−7.混和剤・混和材業界の対応
収縮を低減し、コンクリートに悪影響を与えない材料の開発が望ましいが、難しい。
既存技術の使いこなしの提案が望まれる。
3−8.学会の対応
コンクリートの収縮と影響に対する厳密な研究が不足していた。
収縮のメカニズムの解明、
影響要因の把握、
収縮が構造物に与える影響の把握、
設計法、材料選定・配合・施工法の改善、
標準化、指針化、基準化が必要。
4.乾燥収縮率を求める方法の提案
4−1.基本的な考え方
呼び強度30N/mm2、スランプ18cmのコンクリートについて乾燥収縮率を確認する。
4−2.乾燥収縮を実施すべき条件
4−2−1.配合
普通 30 18 20 N
4−2−2.セメントの種類
必要があればH、BBのデータを収集する。
4−2−3.混和剤の種類
原則=配合に用いるもの。
4−3.乾燥収縮試験の問題
JAS5解説によれば、3個の供試体を用いてJIS A
1129-1〜3により、
乾燥開始後6ヶ月の乾燥収縮率を測定し、
3個の平均値を四捨五入して整数(10マイナス4乗)にする。
試験間隔は明記されていない。
従って、1回/1年程度とすることを提案する。
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コンクリートの収縮問題検討委員会報告書により、収縮問題の姿が明らかになり、解決の方向も示された。
提案された配合のコンクリートの乾燥収縮データを蓄積し、解析して問題の像を絞り込み、有害なひび割れを抑制して行かなければならない。
さて、ここで重要なのは数値の確かさ。
謝った数値がデータに入ると、全体が無に帰してしまうのが統計処理である。
全国的にデータを共有し利用するわけであるし、構造物の与える社会的影響の大きさは言わずもながである。
「鉛筆を舐める」などの事態が生じないように、過度の要求をコントロールしなければならない。
提言で発注者の項があるのはそのためであろう。
それに甘えることなく、技術者倫理に基づき施工者は行動しなければならない。
コンクリートに関わる全ての組織、個人が理解しなければならないことである。
業界に広く周知する方法、履行させる方法を提言に盛り込まなかったのは、技術者、関係者を信頼しているからだと思う。
これに答えなければなるまい。