リベンジ!コン診断
(コンクリート診断士試験に1度失敗した方のために、2010年9月に連載した記事を頁にしました)


コンクリート診断士のニーズの高まり、全国組織化などで資格試験がヒートアップしてきてます。
で、リベンジを少しだけですが応援。
(1)コンクリートの流れを知る。
要求事項を満たすための配合設計、製造、施工、維持管理の流れの中で、
「診断」に影響を与えるものは何か?、
調査資料として集めるべきものは何か?
これを理解するために、一連の工程を復習してみましょう。
ノートに箇条書きです。


リベンジ!コン診断士
(2)ノートへの書き込み
ノートの左頁にコンクリートに関する設計からの一連の工程、右頁を半分に分けて要求事項と診断に係わりそうな内容を記入する欄を設けます。
後で加筆修正するので罫線の間を開けて鉛筆書き。
思いつく限り書いてみましょう。
テキストを読んだりネットで調べた事を書き込んでいくうちにコンクリートのストーリーが掴めてきます。
コン診断の前にコンクリート技士取得をお薦めする理由の1つです。


(3)講習会テキストの読み
テキストは2回読みます。
1回目は全体内容を掴んで大まかな知識とするため。
2回目は原因毎に知識を集約したり、ポイントを固めるため。
コンクリートの内部構造をイメージしつつ、
劣化のメカニズムやストーリーを確実にします。
ノートに書き出したり、劣化原因毎に色を変えた付箋をテキストに貼っても良いでしょう。これにタップリ時間をかけます(実際かかります)。
ひび割れのパターンや表面の変化と原因の関係は特に重要。


(4)問題集
スバリ、十河先生の本をお薦め(お金を貰って宣伝している訳ではありません)。
解説はテキストのエキスです。問題の正誤よりこちらが重要。


(5)勉強のスケジュール
テキスト読みと問題集の解説読みに時間を大きく取りましょう。
過去問の論文が漢字の練習になる位に時間をかけて劣化のストーリーを叩き込みます。
テキストを見ながら論文を書くようなことにならないこと。
毎週末過去問をやって、チェックして…4年分で1ヶ月。
想定問題は間違えたところのチェックも入れて1ヶ月以内。劣化のストーリーが固まっていればやらなくても構わないです(ウサギはサボりました)。
丸暗記強化に2週間使うとすれば、逆算でテキスト読みを終わらせなければならないXデーが出ます。
連休前にテキストを十分理解出来る分、リベンジ組が有利です。
ベースである講習会テキストを応用力の源にしましょう。


(6)目線
一般的には、コンクリートを部材として見る外側からの目線です。
診断は内側からの目線で外への影響を考えることが必要です。
両方の目線を瞬時に切り替えながら使うことが診断に要求されます。


(6-2)目線その2
水和物の組成と細孔組織構造を理解する。
テキストに記載されているのはエキスであり当然覚える。
細孔径の分布はセメントの種類によって変化する。ビーライト系低熱では材齢初期に容積が大きいがσ91で普通ポル程度になる(低熱の強度発現はσ91)。
水和反応が組織構造に影響を与え、圧縮強度に現れる。
大きな細孔が連続する組織は弱い。また、気相と液相ではCO2の拡散速度が違うので中性化に影響を与える。小径は液相になり中性化は遅くなる。
養生が如何に重要であるかは組織構造、ひいては耐久性に関わるからである。圧縮強度を確保するために養生すると考えるのは十分でない。
コン診断士の勉強は、良いコンクリートを造り出すことにも役立ちます。


(7)コンクリートとは何ぞや
「混ぜ物」
この感覚と内部構造を絶えず意識することで診断の能力を身につけましょう。
まず、コンクリートの全容を掴むために、コンクリート技術の要点(JCI)を購入して読むかコンクリートの基礎知識(JCI)を読みましょう。


(8)設計
設計のフローの概略を知るために、
鉄筋コンクリート構造の性能照査の流れ(長岡技術科学大)を読みましょう。
構造物の基準としたコン示が何年版だったのかは重要です。
現コン示ではひび割れ照査は設計で行いますが、以前は施工フェーズ。
ひび割れ係数、温度応力あたりは十分理解しておきましょう。
曲げ破壊先行となるように設計する、標準施工を前提として設計する等も理解して下さい。
診断には、曲げによるひび割れ、せん断によるひび割れなど自重や外力により生じ易いひび割れを知ることが必要です。
耐震は時代によって基準が違います。
補修・補強後の耐震性をどうするか? これ、大きな問題です。
構造物全体で部材の安全性能を合わせる必要がありますし、構造物の重要度や社会的要請等も考慮しなければなりませんから、管理者や行政サイドと煮詰めていく必要があります。


(9)混ぜ物
コンクリートの材料は、
セメント、骨材、水、混和材、混和剤(薬)。
骨材をバインダー(接着剤)で固めたのがコンクリート。
バインダーの主材料であるセメントは、
一般的にクリンカーに3〜4%の石膏を添加して粉砕して製造される。
クリンカーの主成分は[コン]右欄上に載せているので、性質の違いを理解しておく。
診断に関係ないだろうって、
机上調査でマスコン対策に中庸熱を使った構造物と普通ポルトランドの構造物を同じにチェックしますか?。ひび割れの発生し易さは同じですか?
同じと考えるならコン診断士受験は止めた方が良いです。


(10)練り混ぜ水
1)水道法第4条に適合する水 同法ならびに同法に定める基準
2)上水道水以外の水に関するJIS A 5308付属書
塩化物イオン量などの規定があります。


(11)粗骨材
コンクリート用砕石はJIS A 5005-1988
数種類の砕石規格を組み合わせて粒度分布を合わせます。
生コン1m3に1.8m3位の骨材を使いますから、コストを睨んで組み合わせるのは当然。
参考:
採石の規格(益田興産)
アルカリ骨材反応は出題されますから、メカニズムをしっかり覚え込みます。
参考:
ASRWaterPlanet Tomorrows
砂利と砕石の違いは、配合において単位水量が増えるだけではないことをキッチリ理解します。

(12)混和剤
診断の対象になりそうな混和剤だけ覚えておくという省エネ勉強法もあるのでしょうが、ここはコンクリートを知るためにも現在の高性能減水剤までお復習いしましょう。
混和剤はズバリ
コンクリート混和剤の化学(秀島、戸田)です。


(13)混和材
高炉水砕スラグ、フライアッシュはポゾラン効果と共に当然押さえて下さい。
シリカフューム、高炉微粉末は高強度コンに関わってきます。
混和材としてテキストでは扱われていませんが、最近になって石粉(炭酸カルシウム)混合が流行る理由は押さえておきましょう。


(14)コンクリートの製造
(a)所用の目的に合致した生コンを如何に安く製造するか。
(b)JISの縛りは圧縮強度を主としている。
安く造るために無理をした部分が無いか、残された書類から探ることも必要です。


(15)打設
生産性向上を目的に各種機械が開発されて来ており、「耐久性に富んだ良いコンクリートを造る」ことが後回しにされてきた歴史があることを受け入れて下さい。
ポンプは良いコンクリートを造り出すための必須機械ではないです。使わざる得なかった。
ポンプの功罪はキッチリ理解しておく必要があります。
打設方法の違いで施工不良による劣化に違いがでます。ネコやトロッコ、バケットで打設された古いコンクリートが診断の対象になる場合もあります。


(16)養生
養生の重要性を確認して下さい。
残された工程表から暑中コン、寒中コンが推測されます。当然、配慮不足や施工不良で生じ易い劣化も見えてきます。
マスコン、水中コンなど特殊コンも同様です。
工場製作だからと行ってプレキャストを甘く見ない。オートクレープの前養生が十分でなかった場合に不具合が出ることを忘れないで下さい。水和反応と水熱反応の両方を利用しますから配合が変わります。シリカ粒(珪砂)の働きを押さえましょう。


(17)疲労
3大劣化は塩害、ASR、疲労。
特に、コンクリート床版の疲労劣化はメカニズム、進展とひび割れ状態をしっかり叩き込みましょう。
床版は静荷重よりS/Nが効く移動荷重を受けます。過積載のダメージは大きいです。
アスファルトにひびが入っていたら、床版裏に遊離石灰が出ているか確認して防水層の機能をチェックします。
ひび割れた床版が水につかると劣化が進みやすい理由を理解して下さい。打ち直しの判断が明確になります。
あえて理由を書きません。自分で調べることが合格へのチャンスを広げます。


(18)メンテナンス工事
小規模なものから大規模なものまで各種あります。少なくともテキストに出てくる補修・補強工法は理解してください。
材料系、構造系とアプローチ出来るようにしましょう。
工法選定の上で、メーカーや補修業者に要求しなければならないデータが何であるか分かることが大切です。
メンテ工事における制約条件を推測する力も必要です。
片側供用と全面通行止めではメンテの工法が違います。
渇水期と出水期では工法が変わりますから季節も制約条件。
社会的条件や産業・経済からの要望も制約になります。これらを斟酌して補修・補強を考えなければなりません。


(19)判断は全体を考える
部材・部位の要素毎に劣化状況(健全性)を点検していきます。
それらを総合的に考えて対策案を示します。
この”総合的”が問題。
コンクリートの診断とは何か?
構造物管理者の下位にあってやるべき事は何か?
何のために構造物があり維持管理しなければならないか?
コンクリート診断士の仕事とは何か?、その責任は?
この部分…よく考えて下さい。
工学的に「総合的」で終わって良いのでしょうか。


(20)コンクリートを好きになる
コン診断士試験のリベンジなのに、コンクリート一般の事ばかりではないか?
そうです。
診断は、設計、製造、施工、維持・管理とコンクリートの一生について応分の知識を必要とします。
そのために、コンクリートを好きになって下さい。
何処に行ってもコンクリートが最初に目に飛び込んでくる位に好きになって下さい。
連続するハイピアーを見て、どうのようにして造ったか?、施工上の不具合は何処に出やすいか?、維持管理上の問題になりやすい箇所は何処か?…等々が直ちに頭に浮かぶようにコンクリートを好きになって下さい。
風呂に入っても夢の中でもコンクリートが出てくる位になれば診断のテキストがスーッと頭の中に入ってきます。
それから講習会のテキストを読んでも良いのではないでしょうか。
1度の講習会で2回の受験チャンスがあるのは伊達ではないと思います。


con-hammer.jpg
コンクリート点検用のハンマー(ロックチゼルハンマー)



2010年10月以降

(21)原因
コンクリート構造物の診断にあたっては、
1.机上調査から推測される原因を挙げます。
2.現地での目視・観察(双眼鏡等による遠望)から推測される原因を挙げます。
3.近接目視で推測される原因を挙げます。
可能性のある原因を沢山挙げます。
これを主たる原因、従たる原因、無視できない原因などとしてランク分けします。
また、設計フェーズ、施工フェーズ、供用・運用フェーズに分けます。
外観・観察から幾つかの劣化ストーリーが見えて来ます。
そのポイントとなる部分を詳細調査することで確率の高い劣化ストーリーが出てきます。
外観から原因を沢山挙げることが出来る能力は、劣化メカニズムの熟知と設計から供用までの知見がものを言います。
主たる原因は1つでも、それを進展させた従たる原因がいくつもあるのが普通と考えてください。
設計、施工、運用の各フェーズを熟知している技術者は多くありません。専門分野の者による議論が重要になります。
コン診試験において、原因を多く挙げた上で絞っていく形の論文のポイントが高くなる理由はここにあるのではないでしょうか。


(22)目視の機会
目視の機会が少ない方が受験する場合もあるでしょう。
残念な事ですが、街を歩けばコンクリートの劣化した建物や土木構造物はあります。
足を止め、車を降りて、目視の機会を増やしましょう。
劣化ストーリーを考える機会を増やすことはコン診断士の能力を鍛えます。
遠望は一眼レフのズームが便利ですが、いつも持ち歩いている方はいないでしょう。8倍位の小型双眼鏡をお持ちの方は車に積んでおくと遠望目視の機会が増えます。


(23)打音
ロックハンマーをいつでも車に積んでいるのは地質・土質関係の技術者ぐらいかもしれません。
ハンマーも重く高いです。
メタル用(鉄道用)の点検ハンマーは軽くて安いです。これで十分ですから、色々なモノを叩いて音の変化を覚えましょう。
健全なコンクリートは軽く叩くとカンカン、強く叩くとカーンカーン。剥離部分は軽く叩いてもボコボコです。
コンクリートのひび割れ付近と離れた部分での音の違いを確認して下さい。
ナットの緩みは軽いボコボコで一発で分かります。金属の亀裂も分かります。鋼は甲高いカンカン音。鋼で造られた仮設は点検しているはずですから、応用すればシューの傷みは分かります。足場・手摺りや土留の点検で打音していないのは別な問題。確実な安全確保をやっていない事になります。
アスファルト舗装を強く叩けば、ひび割れ部や
ポットホール付近はボコボコ、健全部はカーンと響きます。
木材の腐りも軽く叩けば分かります。
音から傷み具合を知るのが難しくても、”音の変化に気づく”ことは可能です。
目視観察と打音は点検・診断の基本です。こまめに機会を作って体験しておくと論文も具体的表現になります。


(24)択一のケアレスミス
1問、2問で涙を呑んだ方が多いと思います。
受験される方は勉強されているので概要は理解されています。
解答に当たって判断に揺らぎが出たことが失敗になっていませんか?
基本である劣化メカニズムを繰り返し覚えてマスターして下さい。
応用が高いと思われる問題も基本を押さえて出題されてます。講習会テキストを2度読んで下さい。
話題性の高い問題は専門誌に出ていることが多いです。チェックを!(技術を陳腐化させないために技術動向や技術的話題を入手するのも技術者の努めです)。
コンクリートに関して、社会的不安を大きくする不具合のニュースをチェックするのがポイントでは。