高力ボルトについて

「高力ボルト摩擦接合継手の設計・施工・維持管理指針(案)」(土木学会)より
 対象とする限界状態は、母材と連結板間のすべりと母材あるいは連結板の降伏である。疲労限界状態については適用範囲外とする。
この指針(案)で規定していない事項については、当該機関の判断と責任により規定。

高力ボルトを継手等で使用する場合のフィラー(隙間埋め鋼材)に要求されるもの
・所要の摩擦抵抗を確保できる表面処理であること。
・応力伝達以外に防錆防食を配慮する。
・フィラーの材質は、高強度鋼に対しても400N/mm2クラスの一般構造用圧延鋼材を用いて良い。
・母材が耐候性鋼材の場合は、防錆防食の点から原則同種とする。
・2mm以下の板厚のフィラーを用いない。

ボルト孔
 高力ボルトの孔加工にあたっては、ボルトが無理なく挿入でき、ボルト挿入時にねじ山を傷めないように、また、所定の継手耐力が得られるように、孔あけ精度を確保する。孔あけ加工が材片の密着を阻害することがないように必要に応じて孔周辺の処理を行う。

ボルト・ナット・座金
高力ボルトの摩擦接合は、材片間の接合面での摩擦抵抗により力を伝達。材片間の接触圧力を長期に適切に維持することが重要であるので、以下の品質・性能がセットに要求される。
・必要な摩擦抵抗を生じさせる軸力が導入できる。
・軸力を長期に保持できる。
・腐食への配慮を有する。
・作用力に対し破壊せず安全に使用できる。(脆性破壊、延性破壊、疲労破壊、遅れ破壊に抗すること)
・締め付け方法が簡易で、導入軸力が容易に管理できる。

接合面処理に応じたすべり係数の推奨値

接合面の処理

すべり係数 

備考 

 赤錆状態  0.55 粗面仕上げの後に、健全な赤錆を発錆させたもの。
 薬剤による発錆  0.45 化学薬品によって、健全な赤錆を発錆させたもの
 粗面状態  0.25 ディスクグラインダーによって粗面とし、錆がないもの
 粗面状態  0.35(表面粗さの指定無し)
 0.40(10μm>Ra≧5μm)
 0.45(Ra≧10μm)
ショットブラストまたはグリッドブラストによって粗面とし、錆がないもの
 無機ジンクリッチペイント  0.40(塗装厚≦65μm)
 0.50(塗装厚>65μm)
塗料中の乾燥亜鉛含有量は80%以上を原則とする。
0.40では合計塗膜厚を90〜250μmとする
0.50では合計塗膜厚を150〜250μmとする
 有機ジンクリッチペイント  個別にすべり試験を行うなど、継手の性能を確認して決定  
 溶融亜鉛めっき  同上  
 金属溶射  同上  
 機械的粗面仕上げ  同上  

[memo]道路橋示方書・同解説、鉄道構造物等設計標準・同解説では、すべり係数は0.40。本指針では接合面処理に応じて0.25〜0.55までを推奨値としている。下表を参考に施工する必要がある。また、処理にスキルを伴うことから要員配置計画を十分練っておかなければならない。
 なぜ高力ボルト接合が多用されるか?。溶接はデザイン性に優れ、応力の流れも良い、好きな箇所で分割出来るメリットがあります。
しかし溶接には残有応力発生のリスクがついて回ります。溶接残留応力の発生メカニズムは以下です。
(1)溶接部は高温になるが、まわりの低温部に拘束され圧縮応力が生じる。
(2)高温の金属は降伏応力が低下するため、圧縮で塑性ひずみが生じる。
(3)温度が下がると全体が元の長さに戻り、溶接部も短くなろうとして拘束され、引張応力が入る。
(4)クリープを活かし、”後熱”で処理をしなければならない。
 風の影響を大きく受ける現場溶接で施工するより、品質が安定的で工程管理しやすい高力ボルトで縫うのもおかしなことではないのです。



標準ボルト孔径

ボルトの呼び 標準ボルト孔径(mm)
M20,M22,M24 呼び径+2.5
M27,M30,M36 呼び径+3.5

ボルトの最小中心間隔
 ボルトの最小中心間隔は、ソケット経等を考慮し、ボルトの締め付けにあたって支障のない寸法以上とする。

ボルトの標準最小中心間隔

ボルトの呼び径

最小中心間隔(mm)

M36

125

M30

105

M27

95

M24

85

M22

75

M20

65

[memo]道路橋示方書(2002)、鉄道構造物等設計標準、本四の上部構造設計基準の最小値と同じ。

ボルトの最大中心間隔
 ボルトの最大中心間隔は、ボルト間の材片が局部座屈することなく、かつ材片の密着性が確保できる寸法以下とする。

高力ボルトの標準最大中心間隔

ボルトの呼び径

最大中心間隔(mm)

p

g

M36 250 12t

千鳥の場合は15t-3g/8
ただし、12t以下
24t
ただし、300以下
M30 210
M27 190
M24 170
M22 150
M20 130
t:外側の板または形鋼の厚さ(mm)
p:継手に作用する応力方向のボルト間隔(mm)
g:継手に作用する応力直角方向のボルト間隔(mm)

最小縁端距離
 ボルト孔の中心から板の縁までの最小距離は、端抜け(縁端部の破壊)が生じないような寸法とする。

標準最小縁端距離

ボルト呼び径

せん断縁
手動ガス切断縁
(mm)

圧延縁、仕上げ縁
自動ガス切断縁
レーザー切断縁(mm)

M36 65 60
M30 55 50
M27 50 45
M24 42 37
M22 37 32
M20 32 28
[memo]当たり前であるが、ボルト孔の中心からの長さである。

最大縁端距離
 ボルト孔の中心から板の縁までの最大距離は、材片間の密着性が確保できる寸法とする。
[memo]道路橋示方書(2002)、本四上部構造設計基準(1989)では、外側板厚の8倍で150mmを超えない値。

設計ボルト軸力
 高力ボルトの締め付けにあたっては、所定の設計ボルト軸力が得られるように締め付ける。
N=αx・σy・Abe
N:設計ボルト軸力
αx:降伏点に対する比率。F8Tは0.85、F10TやS10Tは0.75
σy:ボルトの降伏耐力(強度)
Abe:ねじ部の有効断面積

     表-高力ボルトの設計ボルト軸力の標準値
セット ねじの呼び径 α σy (n/mm2) Abe (mm2) N (kN)
F8T M20 0.85 640 245 133
M22 303 165
M24 353 192
M27 459 245
M30 561 305
M36 817 444
F10T M20 0.75 900 245 165
M22 303 205
M24 353 238
M27 459 310
M30 561 379
M36 817 551


ボルトの締付け方法
 高力ボルトは、所定の軸力導入が保証できる方法を用いて締め付けを行う。
締め付け方法としては(1)トルク法、(2)ナット回転法、(3)耐力点法がある

トルク法
高力六角ボルトのトルクは、T=k・d・N
T:ナットの締付トルク
k:トルクの計数値
d:ボルトの呼び径
N:締付けボルトの軸力
係数値は指針の24頁、道路示方書に示されている。
トルク法は、原則ナットを回す。

締付けボルト軸力(標準ボルト軸力)
(1)トルク法によって締め付ける場合の締付けボルト軸力は、設計ボルト軸力の10%増を標準とする。
(2)トルシア形高力ボルトの締付けボルト軸力は、工場出荷時において締付けボルト軸力の平均値が一定の範囲に入っていることを確認するとともに、工場出荷時から現場施工時までにその性能が保持されていることを確認する。
(3)耐力点法によって締付ける場合は、作業前に専用締付け機の制御動作軸力の平均値が一定の範囲に入っていることを確認する。

高力六角ボルトのトルク法による締付けボルト軸力の標準値
セット ねじの呼び 設計ボルト軸力(kN)  締付けボルト軸力 (kN)
F8T M20 133 146
M22 165 182 
M24 192 211 
M27 245 270 
M30 305 336 
M36 444 488 
F10T M20 165 182 
M22 205 226 
M24 238 262 
M27 310 341 
M30 379 417 
M36 551 606 

部材の締付け厚さ
 高力ボルトによる部材の最大締め付け厚さは、ねじの呼び径とボルトの最大締め付け長さを考慮して定める。

高力ボルト最大首下長さと最大締付け厚さの例

ねじの呼び径 最大首下長さ (mm) 高力六角ボルトの締付け厚さ加算量 (mm) 最大締付け厚さ (mm)
M20 140 35 105
M22 160 40 120
M24 180 45 135
M27 200 50 150
M30 220 55 165
M36 260 (推定値) 65 195(推定値)

接合部の施工手順
 高力ボルトの締め付けは、接合部で充分な密着が得られるような締め付け手順で行う。
・連結板の中央のボルトから順次端部ボルトに向かって行う。
・最初の締め付けが緩む傾向にあるので、予備締めと本締めの2回に分けて締め付けるのを原則とする。
・仮ボルト以外、空いている孔全てに高力ボルトを差し込み、端からスパナで締める。その後仮ボルトを外す。
・ボルトねじ部を傷つけたりごみを付着させない。
・接合面を密着させるため予備締め(60%の軸力)をする。
・予備締めが終わったらボルト全数にマーキングする。マーキングは予備締め終了の印であると共に本締め終了後の検査に利用する。
・マーキングはボルトねじ部、ナット、座金、連結板にかけて印す。
・本締めは指針に解説する各方法とおりにおこなう。

締付け完了後の検査
(1)締め付け後のボルトは、所定の締め付けがなされていることを適切な検査により確認する。
(2)検査において不合格の場合には、適切な処置を施し所定の品質を確保する。
トルク法により締め付けた場合
各ボルト群の10%のボルト数を標準として、トルクレンチによって締め付け検査する。
ボルト群=同一日、同一寸法、同じ締め付け機。通常、フランジやウェブ等の各材片内のボルト群。
設定したトルク値の±10%の範囲内にあれば合格。
トルクレンチは定期検定により精度を確認しておく。

高力ボルトの締め付け施工で注意すべき点
(1)高力ボルトの品質管理と保管
(2)接合面の処理
(3)締め付ける材片の組み立て精度
(4)接合部材の組み立て
(5)締付け方法と締付け軸力の管理
(6)ボルトの締付け機、測定器具等の検定
(7)ボルト締付け時の天候
(1)高力ボルトの品質管理と保管
ボルト、ナット、座金およびセットは工場出荷時に特性や品質を保証する試験・検査を行い、機械的性質、形状寸法、トルク係数値、締付け軸力等が所定の規格に合格していることを確認しなければならない。
現場搬入時には、検査成績書と照合、保証されたセットであることを確認しなければならない。
工場出荷時の品質が施工時まで保たれるように以下に留意する。
1.工場出荷時から施工時までの期間を出来るだけ短くする。
2.出来るだけ工場包装のまま保管庫に収納し、雨、夜露等の湿気が当たらないようにする。
3.ボルト締め付け場所への搬入を計画的に行い、余分な開包は行わない。
4.濡れ、錆、埃・砂等のねじ部への付着を避けるため、包装は出来るだけ施工直前に解く。
(2)接合面の処理
設計で用いたすべり係数が得られるように適切な処理を行う。
接合面の処理は3.1接合面の処理、4.2すべり係数を参照。
(3)締め付ける材片の組み立て精度
部材同士の食い違いや孔ずれ等に監視、部材製作時の精度確保に注意を払う。また、被接合部材間の板厚差によって同様の問題が生じる恐れがあるので十分注意する。特に、部材同士の食い違いは現場で矯正することは困難であり、著しい食い違いが生じないように工場製作時に留意する。
接合面に板厚調整用フィラーを挿入する、母材にテーパー加工を施して段差の影響を緩和するなどの処理方法は有効と考えられる。肌隙の影響は4.7すべり耐力の補正を参考。
現場継手部の隙間から水の侵入が問題になる場合は、止水材を充填する等の防水処理を行う。
(4)接合部材の組み立て
仮締めボルトとドリフトピンの合計は、その箇所の連結ボルト数の1/3程度を標準とする。その内の1/3以上をドリフトピンとするのがよい。大きな架設応力が作用する場合は、その応力に十分耐えるだけの仮締めボルトとドリフトピンを用いる。
ベントの設置が不可能な場合はその数を多くし、ケーブルエレクション工法の場合はその数を減らし部材間の自由度を増すように施工する。
ドリフトピンを合計の1/3とするのは、ドリフトピンは位置決めに使用し、ボルトは肌合わせに使用することを目的とするためである。
(5)締付け方法と締付け軸力の管理
使用するボルトの種類や締付け機器の特性を十分把握した上で、締付け施工および品質管理を行わなければならない。
(6)ボルトの締付け機、測定器具等の検定
器具の検定は定期検定を示す。
締め付け機、測定器具等の検定は適切な時期に行い、制度を確認する。
1.ボルト軸力計:恒に規定された精度内で使用できるようにしておかねばならない。施工に先立ち現場搬入直前に1回、その後定期的に検定。定期検定は3ヶ月に1回を標準とする。
2.トルクレンチ:現場搬入時に1回、搬入後は1ヶ月に1回を標準とする。使用頻度によっては定期検定の期間を別に定める。
3.ボルト締付け機:現場搬入時に1回、搬入後は3ヶ月に1回を標準とする。インパクトレンチは微調整が困難であり締め付け精度の持続性に問題があるので本締めには使用しない方がよい。予備締めにはトルク制御式インパクトレンチを用いても良い。
4.トルシア形高力ボルト締付け機:ピンテールが有るので検定の必要はなく、整備点検を行えばよい。
(7)ボルト締付け時の天候
降雨の際のボルト締め付けは行わないことを原則とする。
水に濡れた状態で高力ボルトを締め付けた場合、トルク係数値が変化し、軸力のバラツキが増大する。
接合部材や高力ボルトが湿った状態で施工すると、防錆処理に影響を及ぼす可能性がある。

設計の基本
高力ボルト摩擦接合継手は、作用力以上のすべり耐力ならびに降伏耐力を有していなければならない。
高力ボルト摩擦接合継手の限界状態としては、(1)接合面におけるすべり、(2)母材・連結板の降伏、(3)ボルトの端抜けがある。指針では、1、2を限界状態と定義。3は縁端距離を確保することで防いでいる。

すべり係数
高力ボルト摩擦接合の設計にあたっては、接合面の処理方法と品質に応じたすべり係数を用いる。
黒皮(ミルスケール)を除去した粗面状態は、0.40以上のすべり係数が得られることが知られているが、接合面の処理方法は以下の8種類。
1.自然発錆で赤錆状態とする。
2.薬剤処理で発錆させる。
3.ディスクグラインダーで粗面状態にする。
4.ショックブラストまたはグリッドブラストにより粗面処理する。
5.無機ジンクリッチペイントを塗布する。
6.有機ジンクリッチペイントを塗布する。
7.亜鉛めっきや金属溶射を行う。
8.接合面に機械処理を行う。
接合面処理に応じたすべり係数の推奨値は本指針第1部4章に示されている。
ボルトの軸力管理同様、接合面処理には十分な配慮が必要。

1.赤錆面
 接合面を粗面処理し、健全な赤錆状態とした場合のすべり係数の推奨値は、μ=0.55。健全な赤錆状態は7〜10日以上の発錆期間が必要とされている。
2.薬剤処理による赤錆
 リン酸などの薬剤によって接合面に強制的に錆を発錆させた場合のすべり係数の推奨値は、μ=045。バラツキ等を考慮して発錆期間を2〜3日間以上設けることが望ましい。
3.ディスクグラインダー処理面(赤錆無し)
 黒皮を除去した粗面で赤錆が発錆してない場合ののすべり係数の推奨値は、μ=0.25。黒皮が鋼材の表面を覆っていると発錆の妨げになるので、原則、接合部全面の黒皮を除去する。
4.ショット・グリッドブラスト処理面(赤錆無し)
 表面の粗さに応じて、μ=0.35、0.40、0.45より選定。中心平均粗さRaに応じて、接合面をショット・グリッドブラスト処理して表面粗さを指定しない場合はμ=0.35。Raが5μm以上10μm未満ではμ=0.40。Ra10μm以上はμ=0.45。サンドブラストは表面粗度が低く安定性に欠けるため、指針では除外。
5.無機ジンクリッチペイント塗布面
 塗膜厚によってμ=0.45または0.50。無機ジンクリッチペイント合計膜厚を150μm、乾燥亜鉛含有量80%以上を原則として、処理面片面あたり塗膜厚60μm以上あればμ=0.50を確保できるものとする。片面の最小塗膜厚は30μmとする。
6.有機ジンクリッチペイント塗布面
 塗料毎にすべり試験を実施してすべり係数を決定する。
7.亜鉛めっき、アルミ亜鉛溶射処理面
 個別にすべり試験を実施してすべり係数を確認する。
8.機械処理面
 個別にすべり試験を行い確認する。

標準すべり試験
指針にすべり係数推奨値が示されていないなど、実績が少ない処理を行った場合は、標準すべり試験によってすべり係数を確認する。試験方法は指針の45頁参照。

軸方向力が作用する継手
軸方向力を受ける高力ボルト摩擦接合継手は、接合面のすべり、母材および連結板の降伏に対して安全となるように設計する。
この場合のすべり耐力Pslは以下のように求めることを推奨する。
Psl=φsPn
Pn:基本すべり耐力=m・n・ρs
m:接合面の数
n::ルト本数
ρs:ボルト1本1接合面あたりの基本すべり耐力
φs:すべり耐力補正係数

曲げモーメントが作用する継手
曲げモーメントが作用する高力ボルト摩擦接合継手は、継手全体のすべり、ならびに母材および連結板の降伏に対して安全となるように設計する。
照査は指針の「軸方向が作用する継手」に準じる。
すべり耐力(曲げモーメント)はフランジとウェブの協働作用を考慮し以下のように求めることを推奨。
Msl=Σ(φm・φs・di×ρli)
ρli=ρs×m×n
Msl:すべり耐力(曲げモーメント)
di:中立軸からi行目の高力ボルト図心位置までの距離
ρli:i行のすべり耐力
ρs:ボルト1本1接合面あたりの基本すべり耐力
m:複合面の数
n:各ボルト行の高力ボルト数
φs:すべり耐力補正係数
φm:すべり耐力補正係数(曲げモーメント)(フランジ部:1.0、ウェブ部:0.8)

せん断力が作用する継手
せん断力が作用する高力ボルト摩擦接合継手は、すべり、並びに母材および連結板の降伏に関し安全となるように設計する。
せん断すべり耐力は以下のようにして求めることを推奨する。
Qsl=φsQn
Qn:せん断すべり耐力
Qn:基本すべり耐力=m・n・ρs
m:接合面の数
n:ボルト本数
φs:すべり耐力補正係数

組み合わせ断面力が作用する継手
曲げモーメント、軸方向力およびせん断力による組み合わせ断面力を受ける高力ボルト摩擦接合継手は、すべり並びに母材および連結板の降伏に対して安全となるように設計する。
降伏に対する照査は指針の「4.3軸方向力が作用する継手」に準じる。

すべりに対する照査は以下を推奨する。
(1)曲げモーメントと軸方向力が作用する継手
γaγbγiγm(N/Nsl+m/Msl)≦1
γa:構造解析係数
γb:部材係数
γi:構造物係数
γm:材料係数
N:作用軸方向力
Nsl:軸方向力に対するすべり耐力
M:作用曲げモーメント
Msl:すべり耐力(曲げモーメント)

(2)曲げモーメント、軸方向力およびせん断力が作用する継手
γaγbγiγm((N/Nsl+M/Msl)^2+(Q/Qsl)^2)^1/2≦1
γa:構造解析係数
γb:部材係数
γi:構造物係数
γm:材料係数
N:作用軸方向力
Nsl:軸方向力に対するすべり耐力
M:作用曲げモーメント
Msl:すべり耐力(曲げモーメント)
Q:作用せん断力
Qsl:せん断力に対するすべり耐力

すべり耐力の補正
高力ボルト摩擦接合継手のすべり耐力は、必要に応じて以下の項目に対し適切な補正を行う。ただし、以下に含まれない事項に関して補正を行う場合は実験もしくは解析により安全性を確認しなければならない。
(1)肌すき
(2)フィラー
(3)拡大ボルト孔
(4)高力ボルトの多列配置
(5)すべり/降伏耐力比(β)

(1)肌すき:母材の片面板厚差については、1mm以下の場合、すべり耐力の補正を基本的に行う必要がないと考えられる。
(2)フィラー:フィラーを使用するにあたっては、2つの被接合部の板厚の違いが30%以下であれば指針の規定に従う場合においてすべり耐力の補正を行う必要はない。
(3)拡大ボルト孔:指針の「3.2ボルト孔」で推奨するすべり係数μ0を用いる場合には、拡大孔に対するすべり耐力の補正を行う必要はない。
(4)高力ボルトの多列配置:指針に従ってすべり先行型の継手を設計する場合には、高力ボルトの多列化に伴うすべり耐力の補正を行う必要はない。ただし、著しく継手範囲の長い継手では、多列高力ボルトに対するすべり耐力の補正を考慮しなければならない。
(5)すべり/降伏耐力比(β):βは基本すべり耐力Pslと純断面降伏耐力Pynの設計値の比で表される。βが0.7(すべり係数0.4で評価)より小さな範囲では相関性は小さいが、0.7よりも大きな範囲ではβに依存した傾向が認められている。
β≧1.0である継手では、すべり耐力が2割程度低下することが報告されている。(西村、秋山、亀井、土木学会論文集No.675/I-55,pp.1-14,2001)


維持管理
劣化現象
 高力ボルト摩擦接合継手部には、以下のような劣化現象を対象にして維持管理を行う必要がある。
(1)遅れ破壊
(2)腐食
(3)ボルト軸力の低下
(4)すべり係数の変化
(5)異常外力による損傷
(6)疲労

(1)遅れ破壊
 遅れ破壊とは、高強度鋼に一定の引張荷重が加えられている状態で長時間経過した後、外見上ほとんど変形することなしに突然脆性的に破壊する現象。
切り欠き、腐食ピットなどの応力集中部からクラックが発生し、時間と共に徐々に進行して最終的に急速破壊する。このことによりF13T、F11Tは使用しない。
(2)腐食
 高力ボルト摩擦接合継手には凸凹が多く、それらのエッジ部の塗膜厚が確保しにくいため錆が発生しやすい。
ボルト継手に錆が発生すると、強度が低下し安全上の問題が生じることもある。
(3)ボルト軸力の低下
 高力ボルトには、降伏点あるいはそれ近くの応力が導入される。導入された軸力は、締め付け作業直後に数%の低下を生じる。その後、時間経過と共にわずかずつ減少(リラクセーション現象)する。指針では標準軸力として設計軸力の10%増しを推奨。
リラクセーション現象の原因としては、(a)ボルトの腐食、(b)連結板の腐食、(c)塗膜のクリープ、(d)摩擦面のなじみやボルト・ナット間のなじみ、(e)母板・連結板のへたり、(f)ボルトに生じる応力集中による局所的な塑性化などが考えられる。
(4)すべり係数の変化
 すべり係数の経年変化について、実橋での定量的な評価はなく、今後の研究。
(5)異常外力による損傷
 地震力などの異常外力により、ボルト軸力とすべり係数に変化が生じることが考えられる。
(6)疲労
 高力ボルト摩擦接合は、摩擦面を介して応力伝達が行われるため、リベット継手と比較して応力集中が小さく、疲労強度上有利。

防錆および防食
 高力ボルト継手部には、必要に応じて適切な防錆処理や腐食防止対策を講じる。
これに関して指針では以下のように解説している。
(1)高力ボルトの防錆処理
高力ボルトの防錆処理が満足すべき条件としては、
・塗膜の平坦さが良好。流れ、しわ、割れ、ムラがないこと。
・遅れ破壊に対して有害な影響を与えないこと。
・1000時間の塩水噴霧に耐えること。
・締め付け時にボルト頭部ナット隅部などに剥落を生じないような堅牢性を有すること。
・本塗装の下地として塗料との支障がなく、密着性が良いこと。
防錆処理をした高力ボルトとしては、以下がある。
  a)被膜処理 リン酸塩被膜処理、亜鉛粒子被膜処理
  b)フッ素樹脂処理
  c)めっき処理
  d)さび安定化処理
(2)摩擦接合面の防錆
 摩擦継手の特性を損なわないことが必要。処理方法としては、無機ジンクリッチペイント、有機ジンクリッチペイント、溶融亜鉛めっき、亜鉛・アルミ溶射などがある。
(3)連結板こば面の防錆
 対策(防水、防塵、塗膜劣化防止)としては、
  a)連結板こば面にシール剤を塗布する。
  b)連結板こば面に錆止め塗料を塗装する。
  c)連結板のフリーエッジに2R面取りを行う。
  d)排水勾配の上流川に水抜き孔を設ける。
(4)継手部隙間の防水処理
  改善方法として、接合部の隙間に弾性シール材を充填する例がある。
(5)防錆キャップ
  塩化ビニール製のキャップを、ボルト頭、ナット部、ねじ部余長部に被せて完全に覆う形で装着。
(6)局所ブラスト装置
 接合部は凸凹がありケレンは困難である。開閉式塗料飛散防止ネットとの組み合わせて局所的ブラストを行い、良好な下地をつくる。

継手部の点検
 高力ボルト摩擦接合継手部の点検は、以下に示す損傷の有無を確認することを主目的とする。
 (1)塗膜の劣化および発生腐食
   高力ボルトの継手部は、ボルト頭部やナット、連結板のフリーエッジ、部材間の隙間など、凸凹が多く、塗膜の劣化が生じやすい。
   発生・腐食すると断面欠損により軸力が低下する恐れがあり、摩擦接合としての機能を期待できなくなる。
 (2)ボルトの緩みおよび脱落
   接近目視により異常ボルトのチェックが実施されている。
   指針69頁に「接合部に着目した損傷ランク判定基準例」

継手部の点検手法
 高力ボルト摩擦接合継手の各種劣化現象に対する点検手法としては、以下に示す方法が上げられている。
(1)目視点検
  双眼鏡を使用した徒歩目視、定期点検における足場を使った接近目視。
  たたき点検、超音波探傷試験と併用。
(2)たたき点検
  点検用ハンマで叩いて打撃音や指に伝わる振動、ナットの挙動などによって異常ボルトを検出。
  点検者の主観、経験によるところが多く、判断基準は客観性に乏しい。異常ボルトの検出率は20〜60%とされる。
  打撃の自動化、判定の定量化を図る自動ハンマがある。
(3)超音波探傷試験
  高力ボルトの頭部あるいは軸先端部から垂直探触子をあててエコーを観察することで破断ボルトや損傷ボルトの検出を行う。
  メーカーによっては、ボルト頭部や軸先端に凸凹があるので、間接接触型専用治具を用いるか接触面を平滑に仕上げる。  
  遅れ破壊発生の危険性が高いF11Tに対して実施されている。

高力ボルトの軸力測定手法
 既設高力ボルトの軸力測定手法としては、以下が上げられる。
(1)戻しトルク法
  トルクレンチによってボルトを緩め、ナットが動き出したときの値を読み取る。
  検査対象の既設ボルトを新しいボルトに取り替えることが前提。
  測定データがばらつく可能性もあり高い信頼性が得られない。
(2)超音波ボルト軸力計による測定
  ボルト軸部の超音波伝搬時間を測定する方法=超音波縦波を軸力が作用する方向に伝搬させ、ボルト締め付け前後の伝搬時間の変化から軸力を測定。ボルトの原寸法が既知でないと精度が低い。材質や温度の影響が大きい。ボルト頭部や軸先端を高精度に仕上げる必要がある。
  ナット部の超音波の透過量を測定する方法=ナット側面に受・発信のセンサーを対向して取り付け、締め付け量の強弱で透過量が異なることを利用する。30秒/本と測定時間が早い。通常塗装面でも検査可能。ボルト軸力と超音波透過量の校正曲線が必要である。
(3)電磁式軸力計による測定
  ボルト頭部またはナットにセンサを取り付け、センサのコイルに交流電流を与えると、締め付け力に応じた共振が生じる。この共振周波数から軸力を測定。検査速度は2秒/本と早い。ボルト軸力と共振周波数の校正曲線が必要。
(4)測定磁気軸力計による測定
  強磁性体に圧縮応力が作用すると透磁力が低下する。ボルトに軸力が作用するとボルト頭頂面にはへこむような圧縮力が生じる。これを組み合わせて測定する。ボルト頭頂部の仕上げ精度が測定結果のばらつきに影響する。温度の影響を受ける。
(5)ひずみゲージによる測定
  ひずみゲージを貼る場所により幾つかの方法がある。ゲージによる測定は絶対軸力を直接知ることは難しく、ボルト軸力とひずみの関係をキャリブレーションする必要がある。ボルト軸力を解放する必要があることに注意する。対象ボルト全数を抜き取ることになる。

高力ボルトの取替え及び接合部の補修
 点検等により高力ボルトに損傷が確認された場合には、速やかに補修対策を検討しなければならない。

高力ボルトの取り替え順序
必ず、指針の78、79頁の図を参照下さい。
(1)主として軸方向力を受ける継手(主桁、横桁、横梁、橋脚フランジなど)
  a)連結板の片側の中央ボルト列から両側の列へ交合に取り替える
  b)ボルトは各列の中央川から両側のボルトへ交互に取り替える。

(2)主として曲げを受ける継手(主桁、横桁、横梁、橋脚の腹板など)
  腹板の中央のボルト列から両側の列へ交互に取り替える。
(3)ボルト本数の少ない継手の取り替え(横構のガセットなど)
  ボルトは中央のボルトから両側のボルトへ交互に取り替える。

<<注意>>
「高力ボルト摩擦接合継手の設計・施工・維持管理指針(案)」(土木学会)の第一部の概略は以上です。第二部は資料編です。
実際の作業・点検に当たっては、本指針(案)を購入し、読んで下さい。ここに書かれていることは、u.yanの解釈に基づくものであり、内容について責任を負えるものではないです。



高力ボルト呼称の頭についているFとS
 六角ボルトがF。ボルト端部に反力部(ピンテール)を持つトルシア型がS。

                    表1-代表的なボルトの呼び径

種類

ボルト

ナット

座金

呼び径 

規格・基準

高力六角ボルト  F8T  F10  F35  M12,M16,M20,M22,M24,M27,M30 JIS B 1186
   〃  F10T  F10  F35  M27,M30,M36 本州四国連絡橋公団
トルシア形高力ボルト  S10T  F10   F35  M20,M22,M24 日本道路公団
   〃  S10T  F10  F35  M16,M20,M22,M24 日本鋼構造協会
溶融亜鉛めっき高力ボルト  F8T  F10  F35  M12,M16,M20,M22,M24,M27,M30 JIS B 1186相当


              表2-基準類

種類

準拠する基準類または承認機関

高力六角ボルト JIS B 1186 「摩擦接合用高力六角ボルト・六角ナット・平座金のセット」
HBS B 1101 本州四国連絡橋公団 「摩擦接合用太径高力六角ボルト・六角ナット・平座金のセット規格(案)」
トルシア形高力ボルト 日本道路協会 「道路橋示方書・同解説」「摩擦接合用トルシア形高力ボルト・六角ナット・平座金のセット」
日本鋼構造協会「JSS U 09」「構造用トルシア形高力ボルト・六角ナット・平座金のセット」
溶融亜鉛めっき高力ボルト JIS B 1186「摩擦接合用高力六角ボルト・六角ナット・平座金のセット」F8T相当の機械的性質
JIS H 8641 「溶融亜鉛めっき」2種 HDZ 55 に溶融亜鉛めっき性能
防錆処理 HBS B 1102 本州四国連絡橋公団 「摩擦接合用高力六角ボルト・六角ナット・平座金セット暫定規格」
耐候性 JIS B 1186「摩擦接合用高力六角ボルト・六角ナット・平座金のセット」
日本道路協会 「道路橋示方書・同解説」「摩擦接合用トルシア形高力ボルト・六角ナット・平座金のセット」
日本鋼構造協会「JSS U 09」「構造用トルシア形高力ボルト・六角ナット・平座金のセット」に機械的性質準拠
超高力 トルシア形は大臣認定を取得 
耐火鋼(FR鋼) 常温時の機械的性質 JIS B 1186「摩擦接合用高力六角ボルト・六角ナット・平座金のセット」
日本鋼構造協会「JSS U 09」「構造用トルシア形高力ボルト・六角ナット・平座金のセット」
国土交通省、日本建築センターにおいて、建築基準法、建築基準法施工令を遵守し耐火設計
ステンレス JIS B 1186「摩擦接合用高力六角ボルト・六角ナット・平座金のセット」に機械的性質
SSBS 301 ステンレス構造建築協会規格「構造用ステンレス鋼高力六角ボルト」
取り外し可能な仮設用
トルシア形高力ボルト
大臣認定または機械的性質は日本道路協会、日本鋼構造協会の規格に準拠
ワンサイドボルト 大臣認定を取得

*表-1、2は土木学会の「高力ボルト摩擦接合継手の設計・施工・維持管理指針(案)」を参照

高力ボルトの遅れ破壊

高力ボルトは、常時高い軸力が作用しているために特有の損傷がある。高強度鋼に一定の引張荷重を加えているとき、ある時間経過した後に突然脆性的に破壊する「遅れ破壊」である。
この原因は、

a)水素脆性

 鋼材中の水素は鉄と化合物を作らずに鋼材の不連続部にガス状またはイオン状態で存在する。この不連続部を起点として発生する割れが水素脆性で、負荷応力が増えるに従い短時間で発生する。

発生には下限応力がある。また、ベーキング処理により感受性が低下する。

b)応力腐食割れ

鋼表面で局部電池が形成され、アノード側では鋼が溶解してピットが生じ応力集中を受けて亀裂発生点となる。カソード側では水素が発生し水素脆性割れを誘発する。