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コンクリート診断士の定義と役割
 「
コンクリート診断士制度規則」によれば、診断士は、”コンクリートおよび鉄筋等の診断における計画、調査・測定、管理、指導および判定、ならびにそれらの品質劣化に関する予測および対策等を実施する能力のある技術者”と定義されている。コンクリート診断士は、コンクリート構造物の維持管理全般にかかる必要な知識を有し、それにより、コンクリート構造物の劣化の程度を診断し、維持管理の提案をする技術能力を持つ者でなければならない。
 コンクリートの診断には、先に述べた能力が必要であり、維持管理の提案には劣化の進行予測と各種対策の効果の予測などの知識が必要である。 また、診断という行為には、社会的信頼に答える偏りのない公平さが要求され、職業倫理にもとる行為は許されない。高い技術力とモラルにより、市民社会の貴重なインフラとなっているコンクリート構造物の健全性を保つのが診断士の仕事であり役割といえよう。

コンクリートの維持管理の重要性
 一般に耐久性が高いと思われているコンクリート構造物も、、施工不良や不適切な品質であれば短い年月で欠陥が生じる。そのため、社会生活を支えるコンクリート構造物の機能を確保し、安全に使用するには、維持管理は欠かせない重要なものである。また、従来、新設主体であった社会基盤整備が、ストックが増えたことや社会的環境性,財政的理由により、延命や機能付加による再生に変わってきた。その意味においても、前提となるコンクリートの維持管理は重要である。コンクリート標準示方書に「維持管理編」が設けられたのも上記のためと思われる。

コンクリート診断士に要求される資質と社会的役割
 戦後、大量のコンクリートが、道路、ダム、橋梁、河川、下水、港湾、空港、建築物等の社会基盤整備に使用されてきた。これら多くのコンクリート構造物が現在の国民生活を支えていると言っても過言ではないだろう。一般に耐久性が高いと思われているコンクリート構造物であるが、環境条件や施工不良によっては短年で欠陥を生じることもある。社会生活にとって重要なコンクリート構造物の機能を保持し安全に使用するためには、維持管理をおこなう必要がある。
 コンクリート構造物の現況を把握し、劣化の有無を調べ、原因の判定と今後の予測をし、必要な補修を選定する、所謂「コンクリートの診断」は社会基盤たるコンクリート構造物の維持管理の要であり、国民生活を支える重要な役割を担うことになる。
 その診断をおこなうには、幅広いコンクリートに対する知識と経験を有し、前述した内容を遂行する技術力が求められる。
また、コンクリート構造物は、発注者、設計者、施工業者、管理者と利害と立場を異にする人が関わっていることや、税金を使って仕事をすることから高い倫理観による社会的に公平な姿勢を求められる。この技術力と
倫理観を持ち合わせることがコンクリート診断士に求められる資質と考える。

コンクリートの診断とは
 社会基盤であるコンクリート構造物に対し、
 a)コンクリートの現状把握。
 b)各種検査による
劣化原因の判定。
 c)劣化機構のモデル化による劣化程度の推定と今後を予測。
 d)補修方法の検討、提案と維持管理計画の立案。
以上をコンクリートに対する幅広い知識と経験、高い倫理観に基づく社会的公平性に則っておこなうこと。

RCが構造物として成立する理由
 a)圧縮力はコンクリートが、引っ張り力は鉄筋が受け持つことで、補完しあって外力に抗することが出来る。
 b)コンクリートと鉄筋が付着し合い、一体となって変形に抗することが出来る。
 c)鉄筋を包む
コンクリートの強アルカリ性により鉄筋が発錆しない
 d)コンクリートと鉄筋の熱膨張係数がほぼ同じで、熱に対する変位が一体である。
 e)コンクリートが被覆材として熱から鉄筋を守る。
 f)形状の自由性が比較的高く、意匠を反映しやすい。
 g)コンクリート、鉄筋とも入手しやすく、材料としての価格も安い。
以上のような特徴を有しているため鉄筋コンクリートが構造物として成立し、広く使用されている。

コンクリート強度の非破壊検査方法
 a)リバウンドハンマーによる反発度法:反発度と硬度には相関があり、硬度と強度にも相関がある。それを利用してコンクリートの表面反発度からコンクリート強度を推定する手法である。
使用にあたっては、コンクリートの材齢、打撃方向、表面の乾湿状態、受けている応力等に応じた補正を適切にしなければならない。また、値のばらつきが大きいので、強度推定式をキャリブレーションする必要もある。
  b)超音波法:コンクリート中の超音波伝搬速度より弾性係数を算出し、相関のあるコンクリート強度を推定する。

鉄筋被りの非破壊検査方法
 a)電磁誘導法:コイルに流した電流による磁場が鉄筋により変化し、起電力が変化するのを感知して、鉄筋径や被りを測定する。
コンクリートに空洞部があっても鉄筋を探査できる。
 b)電磁レーダー法:インパルス条の電磁波をコンクリートに発射し、電気性質の異なる鉄筋とコンクリートで反射した電波を受信測定し、時間差から鉄筋位置を探査する。
周波数を高くすると分解能は上がるが、探査深度は浅くなり、周波数を低くするとその逆となる特性がある。鉄筋径は測定できないし、コンクリートに空洞部があるとその奥にある鉄筋は探査できない。
 c)放射線法:X線、γ線をコンクリートに照射して、得られた透過画像を解析して鉄筋被りを推算する。
作業にあたっては、X線作業主任者の有資格者を配し、立体半径5m以内立入禁止の措置を確実におこなう必要がある。
部材厚が大きいと時間が掛かるし、探査深度は50cm以内である。

塩害
 1)調査方法
  a)
外観調査により、ひび割れの有無や程度の測定、錆汁の有無を把握する。
 b)重量法、モール法、クロム酸銀吸光光度法、電位差滴定法により塩化物イオン濃度を測定し、発錆限界量1.2kg/ m3以下であるか否かを確認する。
ドリル削孔による粉体採取か、採取コアを2cm厚にスライスして、表面からの塩化物イオンの濃度分布と浸入速度を推定する。塩化物イオン濃度と見掛け拡散係数により拡散方程式を解いて、鉄筋部の塩化物イオン濃度を推定する。
 c)EPMA(電子線マイクロアナザイラー)により塩化物イオンの浸入状態を観察。 d)電気抵抗法により、含水量、塩化物量を含めたトータルでの鉄筋腐食のしやすさを調査する。
 e)分極抵抗法により鉄筋の腐食速度を測定する。(測定に際しておこなう自然電位測定結果より腐食の可能性も把握しておく。)
 f)a)で、ひび割れが生じていたらd)e)を中止し、鉄筋をはつり出して腐食状態を確認する。鉄筋をサンプリングし、腐食面積、質量減少率を測定する。
 以上の調査により、劣化原因を特定する。
補修方法を選定するには以下の調査を追加したい。
 g)ガーゼ法による飛来塩化物量測定等の周囲の環境調査。
 h)中性化深さの測定。
 i)コンクリート強度の測定と配合分析。
 j)アルカリ骨材反応の有無確認のため、骨材の鉱物鑑定とコンクリートの残存膨張量調査。                                   
 2)補修方法
      鉄筋腐食箇所は、鉄筋の背後まではつり出し、鉄筋に防錆材を塗布する。必要であれば鉄筋を差し替える。プライマーを塗ってポリマーセメントモルタルにより断面を修復する。 構造物全体に塩化物イオン濃度が高い場合は、脱塩工法を採用する。融雪剤散布や海沿い等塩化物の浸入が高い場所は、抑制のため表面被膜工法を施す。
 鉄筋腐食が進み、構造物の耐力低下が認められる場合は、補強をおこなう。

中性化
  1)調査方法
  a)外観調査により、ひび割れの有無や程度の測定、錆汁の有無を把握する。
 b)フェノールフタレイン1%エタノール溶液噴霧による中性化深さの測定。現場状況により、ドリル法、採取コア割裂、はつり出し法を適宜採用。原則、中性化は経過時間の平方根に比例するので中性化進行予測式を求める。
 c)コンクリートの熱分析(TG、DTA)により中性化進行度を調査する。
 d)電磁誘導法により、鉄筋被りを測定する。b)−d)より中性化残りを算出。中性化残り10mm以下は腐食環境(塩化物イオン濃度1.2kg/ m3以上では25mm以下)にあると考えられる。
 e)腐食環境ならば分極抵抗法で鉄筋の腐食速度を測定する。(その際、事前に実施する自然電位法により鉄筋の腐食の可能性をチェックしておく)
 f)d)e)で鉄筋の腐食が判断されたならば、はつり出して鉄筋腐食状況を観察する。鉄筋を採取し、鉄筋腐食面積、質量減少率を測定する。
 g)EPMAにより炭酸化の進行状況を観察確認する。
  h)補修方法選定資料にするので、CO2濃度測定、PH試験、溶存酸素量測定、コンクリート強度測定をおこなう。
  2)補修方法
  ひび割れ注入工法を施し、表面被覆工法をおこなう。必要ならばアルカリ性付与材の含浸塗装工法、再アルカリ化工法を採用する。

アルカリシリカ反応
 1)調査方法
 外観検査より以下を確認する。
 a)アルカリシリカ反応特有の
ひび割れパターンの有無。無筋コンクリートなど拘束が少なければ亀甲状のひび割れ、拘束が強いと拘束方向のひび割れが生じる。ひび割れ幅、長さを測定する。
 b)コンクリートの変色の有無。
 c)コンクリートの膨張による剥離や段差の有無。
 d)ひび割れ部分へのゲル滲出の有無。
以上の特色が見受けられたらアルカリシリカ反応を疑い、コアを採取して詳細調査をおこなう。
 e)偏光顕微鏡、SEM、X線回析により、骨材の鉱物鑑定をおこなう。
 f)SEM観察によりアルカリシリカゲルの検出をおこなう。
 g)モルタルバー法、促進モルタルバー法により、骨材のアルカリ反応を確認する。
 h)コンクリート成分分析によりアルカリ量を測定する。
 i)JCI−DD2法やカナダ法による残存膨張量の測定。
以上の詳細調査によりアルカリシリカ反応が劣化原因かどうか判定する。
さらに、コンクリート強度、弾性係数を測定し、構造物の機能と耐久性能を調査する。これらを踏まえ、劣化程度と今後を予測する。
 2)補修方法
 補修方法は、外部からの水分供給をなくすことを基本とする。ひび割れ注入工法、充填工法、断面修復工法を組み合わせて補修をおこなった上、コンクリート表面に遮水対策を施す。
 膨張が終了してない場合は、ひび割れ追従性の良い補修材料を使用し、膨張がほぼ終了しているのであれば、通常の補修材料を使用する。
 膨張が進行する場合は、定期点検にて変状を監視する。膨張量が大きい場合、鋼バンド等で抑制する。

凍害
 1)調査方法
 a)外観調査により、凍害特有の変状である、スケーリング、微細ひび割れ、ポップアウトの有無を調べると共に、これら劣化箇所の分布や深さを測定する。その際、凍害が鉄筋まで達しているか否かを確認する。
 b)コンクリートの配合、W/ C、空気量、AE剤使用の有無、骨材の品質(吸水率や安定性損失試験)などコンクリートに関する要因を調査する。
 c)コンクリート部材形状、鉄筋量など構造体に関する要因を調査する。
 d)水分の供給程度、日射の影響、最低気温や凍結融解回数などの環境条件を調査する。
 e)コンクリートの細孔径分布と気泡間隔を調査する。(気泡間隔係数200μm で耐凍害性有りと判定する)
 f)コアによるコンクリート強度や超音波法により弾性係数を測定して補修方法選定資料にする。
  2)補修方法
 劣化の潜伏期、進展期は、ひび割れを補修し、表面からの水分浸入防止のため表面被覆工法を施す。加速期、劣化期は、スケーリングやポップアウト部分を除去し、鉄筋を防食した上で断面修復をおこなう。

火災
 a)コンクリートの変色調査
 火災の熱を受けてコンクリートが
変色するので、外観調査より受熱温度を推定する。
   イ)300℃以下:すす付着
   ロ)300〜600℃:ピンク色
   ハ)600〜950℃:灰白色
   ニ)950〜1200℃:淡黄色
   ホ)1200℃以上:溶融
 b)UVスペクトル法
 外観検査で判断しにくい場合は、コンクリートを採取し、UVスペクトル分析により健全部と火害部を比較して、コンクリート深さ方向の受熱温度分布を推定する。
 c)中性化深さ測定
 コンクリート表面をはつり、フェノールフタレイン法により、火害部が健全部に比べて中性化が進んでいないか調査する。鉄筋部分まで中性化していたら鉄筋も熱害を受けたと考える。
 d)コア強度試験
 材料試験として、コアの抜き取り試験を行う。構造部材として支障ありと判断したら、振動試験、載荷試験を行う。
  e)鉄筋抜き取り試験
 サンプリングして引張試験し、力学的特性(引張強度、降伏点、伸び等)のを測定する。

モニタリング(2009.9.25加筆)
リアルタイムの監視としてモニタリングは大きな力である。
このデータ利用として、シミュレーション技術の進展が急がれる。
これによる「見える化」は、シナリオの検討だけでなく、ステークホルダーへの説明責任に大きな効果をもたらす。
構造物への影響の少なさや結果の定量化を狙って、非破壊試験の技術開発が盛んである。これがモニタリングへ応用されて技術開発を一層活発化させる。
参考:
構造物コンクリートの強度測定方法(地質と土木をつなぐ)

アセットマネジメント(AM)とインフラマネジメント(IM)(2009.9.25加筆)
目立たずにいるが、インフラは公器であり、暮らしや産業・経済に多大な影響を与える。
インフラを国民の財産と考え、投資・運用的発想で効率的な利用を図ろうとする仕組み(管理手法)がAMである。
”予防保全”を使ってインフラが生み出す社会的便益の損失を防ぐものであり、インフラの価値を保全するストックマネジメントとは違う。
また、AMは、維持管理に関する(ア)要素技術、技術者、技術管理計画&(イ)資金計画、資金マネージャーなどが関わらなければならない活動である。
ライフサイクルコストをベースに、効用の最適化と便益の損失抑制を図る手法であったのが、財政ひっ迫を受けて費用の平滑化手法(山崩しや先送り)だけになってしまった。
インフラが持つ3要素、
(1)工学的観点と経済的観点、
(2)用途故の長期的展望、
(3)エンドユーザーとの関わりを、
企画、新設段階から廃棄まで大きな枠組みで考えようとする、拡大的であり、本質的なマネジメントがIMである。
AMはIMの(1)工学的観点と経済的観点に含まれる。
問題解決のための要素技術の発達には研究開発から実験、実施と評価修正が必要であり、産学官の連携を要する。
また、単独分野の発達だけでは解決出来ない程に社会からの要求は増えており、幅広い分野の技術的集積を必要としている。
インフラは単独で機能しているのではなく、系統やエリアによる集団として機能している。これに時間軸を重ねると長期的視野を必要とする。
エンドユーザーから託された行政が、社会・経済等の進展を的確に予測し、企画から廃棄まで長期に渡り、構造物群の効用を最大化し続けることは、容易ではない。
エンドユーザーの関与・参加による適宜の修正(発展的変更)を要するので、エンドユーザーと行政をつなぐプランナーと全体マネージャーが必要である。
インフラの資金も、無利子の税金、有利子の民間資金、ソーシャルキャピタル的な投資ファンドと各種あり、組み合わせによる最適化を考える必要がある。
場合によれば新しい資金調達手法を生み出さなければならない。
これらを取り込み、社会を満足させる仕組みとしてIMがある。まだ、スタートしたばかりで世間の認知は低いが、あるべき姿を具体化するものである。

 財政赤字や人口減少による税収低下を背景とした公的投資縮小に対して、維持管理も公以外の投資に期待する手法が出てくるであろう。その導入において低額有料化や供用規制などの制約条件も出てくるであろうし、規制緩和や税制措置なども検討されるべきであろう。
その手法の有効性をシミュレーションする場合、社会ニーズの時系列の変化をどのように見るかが課題となる。
投資者は大きめのリスク管理を求めるであろうし、ユーザーの代表者としての行政は小さくリスクマネジメントしたい。では、投資計画段階からユーザーの合意形成を行うのかという問題となる。
 課題解決にモデル事業や社会的実験は有効である。それを行うに当たっては、目的をハッキリさせると共に社会基盤とは何かというコンセンサス形成が重要になる。IMはこれらを含めた管理手法でなければならない。
 国民の財産としてのインフラを保護するのみならず価値を高める行為は、財産の持ち主である国民により評価される。指標の要素に何を入れ、どのように組み合わせるかということもIMの仕事となる。(この段落2010.5加筆)

ライフサイクルにおけるコストとリスク
劣化進行予測に基づいてLCCを算出するのに、適切な対策を行った後の年期待損失(リスク)をカウントしないのはおかしい。
コストとリスクを含めた形が最適なマネジメントとなる。
資金調達計画(予算)が先に決まっており、その中に納めようとすると資金平滑化重視の計画になり、LCCのレベルに留まりがちである。

インフラのネットワーク
構造物の最小限の機能を保持するのが基礎的維持管理。縮退していく地域のインフラは基礎的維持管理となりやすい。
ニーズは基礎的な範囲を超えることが通例であり、住民満足度を向上させるにはサービスが必要である。
インフラをネットワーク化し、社会的便益を大きくすることで、サービス投資を回収する方法がある。これが、”財産”として扱うと言うことではないだろうか。
費用と便益を調和させて全体費用最小化を図ろうとすると、最適なネットワークの大きさが定まってくる。
このネットワークの大きさと生活圏や経済圏が等しければ問題ないが、違う場合がある。また、行政的な区画と同じではない。さらに、経年で広さは変化する。
これらは、技術的判断、経済的判断、行政的判断を総合的に要求されるだけでなく、住民が積極的に参加しないと解決出来ない。この意味からもIMは有効な方法と言える。