コンクリート診断士試験(写真による外観調査)小論文対策

1.立地条件
 設問や写真の背景から立地条件を推定します。
海沿いなら塩害の可能性。雪・氷に水がかかった跡があれば凍害。温泉地や下水道なら化学的侵食の可能性があります。乾燥しやすいと中性化(ただし著しく乾燥すると進みにくい)、湿潤だと凍害だけでなくアルカリ骨材反応も進展します。

2.構造物
 設問や写真、経験も踏まえて、鉄筋コンクリートか無筋か、プレストレストかの区別をつけてみます。無筋で塩害はないです。

以下の3〜5で、変状から劣化原因を探ります。
3.変色
 錆汁=鉄筋腐食。エフロレッセンスならコンクリート内部で水が動いた証拠。火災による変色は温度により違います。桃色なら火災が濃厚。アルカリシリカ反応も変色しますし、ゲルの白色が特徴となります。

4.ひび割れ
 編み目ならアルカリシリカ反応。微細ひび割れは凍害。
ひび割れのパターン、ひび割れの発達方向と拘束の関係を思い出しましょう。ひび割れ原因には、
・セメントの異常凝結や練り混ぜ不足
・硬化中の型枠ズレ
・乾燥収縮
・温度応力
・沈下変位
・過大な荷重
などあります。
火災によるひび割れは爆裂による剥離もありますし、どこかにススも付いているはずです。コールドジョイントとひび割れの区別は当然つきますね。

5.剥離
 錆汁を伴っているなら塩害。割れるような感じならアルカリシリカ反応。凍害はポップアウトとスケーリングです。化学的侵入による膨張剥離を忘れないでください。

6.劣化原因と劣化過程
 
劣化は、施工不良等に起因する初期不良、経年変化によるもの、荷重等の使用条件によるものに大別されます。
先ず、1〜5までのデータで事実を拾い、論理的に積み上げ、原因を仮定します。
仮定した原因から、劣化の過程がスムーズに説明できて、写真の状況になるのならばしめたものです。
中性化と塩害のように劣化因子が複数の場合があります。実際にその方が多いはずです。
 鉄筋コンクリートの劣化は、コンクリートの劣化と鉄筋の劣化に大別できます。
コンクリートの劣化は、”強度劣化”、”ひび割れ”、”表面劣化”に分類でき、鉄筋の劣化は”鉄筋腐食”です。
 主な劣化の原因は、中性化、塩害、アルカリシリカ反応、凍害、化学的侵食、外力です。
 劣化進行は、潜伏期→進展期→加速期→劣化期。
進展期と加速期を分けるものは何か?を知っておきましょう。構造物の供用にどのくらい影響するかを考えるとイメージし易いと思います。

劣化原因

進展期と加速期を分けるもの

 中性化  腐食ひび割れの開始で錆汁
 塩害  腐食ひび割れの開始で錆汁
 アルカリシリカ反応  ひび割れ密度の増加
 凍害  鉄筋付近までのひび割れ
 化学的侵食  鋼材腐食の開始
 外力  耐荷力の低下

7.追加調査
 劣化原因・劣化過程の判断を確実にする追加調査が必要ではないですか?。
1)コア採取とリバウンドハンマーによる強度推定
2)サーモグラフィーや弾性波、電磁レーダーによるひび割れ調査
3)電磁誘導やX線撮影による鉄筋のかぶり測定
4)ハツリ法やドリル法による中性化深さの測定
5)塩化物イオン濃度の測定
6)自然電位や分極抵抗による鉄筋腐食調査
7)コアの膨張量測定や電子顕微鏡によるアルカリシリカ反応調査
等があります。
 塩害の詳細調査の流れは、
詳細な目視で錆汁を確認し、
鉄筋の健全度を確認する自然電位測定。
それによりコア採取位置を決め、塩化物イオン濃度を測定。
影響の無い部分でハツリ、鉄筋腐食状態とかぶりの実測。


8.現在の構造物の性能(劣化の判定と今後の劣化進行予測)
 診断の仕事です。劣化の程度から構造物の現在の性能を示し(自信を持って断言します。文末は〜である。)、要求性能に対する不足分を適切に説明します。
補修・補強を措置しない場合の今後の劣化予測を簡潔に書きましょう。
 構造物の基本性能は、
・安全性能
・使用性能(ひび割れ抵抗性など)
・第三者影響に関する性能(剥落抵抗性など)
・美観景観
・耐久性能

9.対策方法
 対策の要否を決め、適切な策を選びます。
費用対効果は高いですか?。
ライフサイクルコストを考えた対策になってますか?。単なる復状では社会ニーズに合致しない場合があります。
(メンテナンスとアセットマネジメントについては
技術者向けよくわかるアセットマネジメントを参照して下さい)
 対策は、無処置、点検強化、供用制限、補修、補強、解体、使用性回復、機能向上、修景に別けられます。
2007年版コンクリート示方書では対策の種類を:「点検強化」、「補修」、「補強」、「機能向上」、「供用制限」、「解体・撤去」の6種としてます。
また、対策の緊急度により、応急、暫定、延命、恒久に分類されます。
補修=部材あるいはコンクリート構造物の劣化進行を抑制し、耐久性能回復向上と第三者影響度の除去低減を目的とする。2007年版コンクリート示方書では:第三者への影響の除去あるいは、美観・景観や耐久性の回復もしくは向上を目的とした対策。ただし、建設時に構造物が保有していた程度まで、安全性あるいは、使用性のうちの力学的な性能を回復させるための対策を含む。
補強=部材あるいはコンクリート構造物の耐荷性能や剛性などの力学的な性能低下を回復向上させることを目的とする。2007年版コンクリート示方書では:建設時に構造物が保有していたよりも高い性能まで、安全性あるいは、使用性のうちの力学的な性能を向上させるための対策。
力学的性能回復・向上方法に関しては、

区分

工法

 断面増加  増厚工法、巻き立て工法
 部材交換  打ち換え工法
 部材追加  増桁工法、ブレース追加工法
 補強材  鋼板巻き立て・鋼板接着工法
 外力導入  外ケーブルによるプレストレス導入工法
 支持点増加  支点増設工法

対策を考える場合、目的別に荒く分け、その次に工法を選択すると楽ですし、文書が論理的に積み上がってきます。例えば、
補修=1)影響要素(劣化因子)の遮断…ひび割れ処置、表面被覆
     2)劣化速度の抑制…防食、含浸材
     3)劣化因子の除去(排除)…断面修復、脱塩、再アルカリ化
     4)安全策(第三者影響度の抑制))…剥落対策
補強=1)部材取り替え…路床打替え
     2)部材寸法・断面の変更…増厚
     3)部材数の追加…増桁
     4)補強材の使用…FRPシート
     5)力学的変更…支持点増加
     6)構造形式の変更…外ケーブル式へ
注意しなければならないのは、補修、補強ともに公衆被害防止策、二次的被害防止策を忘れないこと。

6種類の対策について少し書いておきます(2009.9.25加筆)。
「点検強化」、「補修」、「補強」、修景、使用性回復、「機能向上」、「供用制限」、「解体・撤去」
「点検強化」の効果は大きい。
現状の点検は目視を主体とし、打音のような簡単な試験と組み合わせている。
目視点検の頻度が上がるだけでも、早期発見につながる。ボランティアによる点検活動が検討される理由である。
使用性回復
対象構造物に要求される品質の1つが使用性である。大きく言えば「補修」、「補強」、修景は使用性回復の一環である。
使ってもらうためにインフラはある。モニュメントではない。
暮らしの中で使われるインフラにとって、美観・見栄えは欠くことの出来ない要素であり、構造物の観光資源への進出もあって、修景は長寿命化に必須となる。
「機能向上」
人口構成の中で高齢者の比率が増加してきている。人口減少による労働層の減少を抑えると共に、経験を有効に生かしてもらうには”使い勝手”の向上が必要。
才能の有効活用と少子対策として、女性参画は重要ポイントである。社会進出へのハードル下げは妊婦対策からではないだろうか。ソフト対策だけで解決出来ない。
加えて、グローバル社会の進展でユニバーサルデザイン化は進めなければならない。
これらの要求を満たすために、「機能向上」は必要である。
「供用制限」
社会の進展により要求される性能と現性能の差から、制限付きで供用する場合、
供用期間を延ばすために、疲労破壊の予測から制限を儲ける場合、
等々あるが、対象構造物だけの目線で考えないこと。
迂回路や交通ネットワークへの影響、周辺環境なども考慮しての対策としなければならない。
A橋を延命したためにB橋C橋の寿命を短くした等は、エリア全体のマネジメントを考えていない事業費の無駄遣いだけでなく、影響者を増やして社会的な機会損失を発生させる。
「解体・撤去」
更新と廃止の2方向だけを検討すべきではない。
対象地点では廃止であっても、構造物の部材(例えばPC桁など)を他地点の構造部材とするリサイクルがある。
コン診試験には出題されないであろうが、意見・提案として書いておく。
性能設計は対象箇所に対する最適化を狙いとしている。これはこれで正しい。
循環型社会構築から要求される3Rに対し、共通プレバブ化、モジュール生産は検討に値する。
100年供用部材として70年は車道部で使用し、交通量増加後の30年は歩道部で使う等は考えられる。このとき共通仕様でのプレバブ化が効いてくる。
100年の長さは、50年を考えた従前と違う発想を要求してくるのではないだろうか。今ある手法は、50年用から派生してきたと認識しておくべきである。
(加筆終わり)


10.今後の監視及び維持管理策
 中長期的な観点を持って、低コストで適切な策を示します。意見はハッキリ言い切ります。
「ライフサイクルコスト」、「アセットマネジメント」のキーワードを忘れずに。
 循環型社会が進展してきてますので、構造物の延命化は廃棄物やリサイクル材の発生抑制にもつながります。セメントや鋼材の製造でCO2が排出されますから、温暖化対策にもつながることを言い添えましょう。
 点検には、”初期点検”、”日常点検”、”定期点検”、”詳細点検”、”臨時点検”があります。用語に注意してください。
2007年版コンクリート示方書では、点検を下表のように区分。

点検の種類(2007年版コンクリート示方書)

診断 初期の診断 初期点検 =構造物の初期状態を把握するために行う点検。
  定期の診断 日常点検 =日常的に行い、構造物の状態の変化を把握するための点検。
    定期点検 =1〜数年に一度の間隔で行い、構造物の状態をより広範囲に把握するための点検。
  臨時の診断 臨時点検 =外力等の作用で損傷した構造物に対して行う点検
    緊急点検 =損傷構造物と類似の構造物に対して行う点検。

調査=構造物の状態や周辺状況を調べること。
検査=構造物の現状を把握し、性能を確認すること。
点検=2007年版コンクリート示方書では:診断において構造物や部材に異常がないか調べる行為の総称。
2007年版コンクリート示方書では、維持管理を「予防維持管理」、「事後維持管理」、「観察維持管理」の3区分とし、2001年版にあった「無点検維持管理」が削除されてます。


11.論文書き
 PCで予備原稿を作成される方は、後で手書きすることを勧めます。 
・数字やアルファベットは1マスに2文字書きしますので行の狂いが実感できます。
・ハッキリしない漢字が意外と多いことに気づきます。
・手書きに要する時間を計ってみてください。加筆修正は消しゴムを使いますから結構時間がかかります。
参考:論文作成にあたっては、木下是雄先生の「理科系の作文技術 」(中公新書)が参考になります。

12.過去問題
 A問題は診断・維持管理の基本を理解しているか突いてくるだけでなく、話題性も考慮した設問です。
 B問題のうち、劣化原因についての私の考えです。参考までに。
2001年:海岸構造物であり塩害環境にも関わらず錆汁無し。コンクリートの変色と水平ひび割れからアルカリシリカ反応と推定。 
2002年 B-1:凍害環境であり、飛来塩による塩害環境であるが、ひび割れからアルカリシリカ反応を示している。
     B-2:橋脚部分のスケーリングから凍害。水平な白色ひび割れからアルカリシリカ反応。
     B-3:橋軸方向のひび割れとコア残存膨張率、反応を促進させる海砂使用からアルカリシリカ反応と推定。
2003年 B-1:寒暖差の少ない北側で水が集まる側の表面に変状が無く強度差が少ないことから凍害ではない。膨張率が小さく片側にしか変状が出ていないことからアル骨ではない。日が当たる南側で水が溜まらない側(乾燥し易い)の中性化が大きく進み、その深部で塩化物イオンが濃縮されている。中性化とそれによる塩害と推定。施工不良+凍結防止剤(塩分)が原因の可能性が高い。
     B-2:1階は乾燥収縮によるひび割れ。4階踊り場はアルカリシリカ反応。
2004年 B-1:パラペット部は乾燥収縮。庇部は乾燥収縮と温度変化によるひび割れ。庇水切り部はかぶり不足による鉄筋腐食と推定。
     B-2:港湾構造物で塩害環境である。補修時に除去できなかった内在塩化物イオンによる塩害と推定。マクロセル腐食を起こしている公算大。電気防食が最適。
2005年 B-1:Aはひび割れ角度が寝ていることからコールドジョイントなどの施工不良。Bは開口部から45度のひび割れで乾燥収縮。Cはセパ下に水が溜まった。
     B-2:Aは先に打設した下床版に拘束された温度応力によるひび割れ(貫通しやすい)。Bは塩害による鉄筋腐食。

  乱暴な言い回しですみませんでした。一人でも多くの方がコンクリート診断士試験に合格されることを願ってます。